アトリエ白美「渡辺肖像画工房」 渡辺晃吉
- 平成14年11月30日(土曜日)
【晴】
風もなく穏やかな月末となった。
午前中スケッチレッスンのため田沼町に行く。
田沼町は老中田沼意次の先祖の地であるという。
正午少し前に帰室、ストーブにかけてあるおでんをおかずに昼食を摂る。
味が良く浸みて意外に美味いのと、日持ちがするので大変助かる。
昨日は前の畑のオバさんが大根を置いていってくれたので、明日あたり仕込もう。
母屋の勝手口の袋に入れてあるジャガイモも少し入れると具が増えるだけでなく、日が経つ程味が良くなるので楽しみである。
それから里芋もけっこう良い。
鍋の口ギリギリまで入った様々の具が、湯気を立てて煮えていくのを見ていると、冬もまんざらではない気がしてくる。
訪れる客へのささやかなもてなしである。
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- 平成14年11月29日(金曜日)
【晴】
画室を開き、いつもの用意を終えてBGMを流す。
昨日息子が探してきてくれたブラザースホォアとPP&MのCDである。
土間のスピーカーをいつもより大き目にして、通りすがりの人にもサービスする。
美しく懐かしい曲が次々と流れてくる。
1960年代は正にフォークの時代であった。
世界は今以上に多くの危機を抱えていたが、反面あれ程直向に人が生きた時代も希有であったかもしれない。
夕方息子からメールが入る。
マフェリア・ジャクソンのCDを見付けたと言う。
是非買ってもらいたい旨返信する。
間もなく息子が帰り、早速CDをかける。
マフェリアの腹の底に響くような唱が流れ始め、既に暮れなずんだ街道に広がっていく。
明日はファドのアマリア・ロドリゲスとフォルクローレのアタウアルパ・ユパンキを探してもらおう。
今日から土間に火鉢を出し、炭を入れて来訪者の手あぶりにする。
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- 平成14年11月28日(木曜日)
【晴】
あの頃、我が家の前の道を通りすがって行った人達の中には、多くの物売りや行商人と云われる商売人がいたものだった。
商品を入れた箱や行李を、大きな風呂敷に包んで背負い歩く人もいれば、大八車やリアカーに荷を積んで売り歩く人。
中でも一番多かったのは自転車の人達だった。
八百屋、魚屋、薬屋、佃煮屋、あさりしじみ売り、納豆屋、豆腐屋、小間物屋、服屋、金魚売り、いかけ屋、ラオ屋、チンチン豆屋、ポンポン煎餅屋、風鈴売り、そしていなり寿司屋と際限がない。
珍しいものの中に鉄砲売りという人がいた。
針金とバネを使い、篠竹の輪切りを弾にしたオモチャや、スギの実の弾を撃ち出すスギ鉄砲、角棒とゴムで作った紙鉄砲、そして新聞紙の矢を使った吹き矢などを自転車の周りにぶら下げて売り歩くのだ。
鉄砲売りのオジさんの自転車が来ると、近所の子供達が、まるで地から湧いたように集まって来るのだった。
ネズミの黒焼きという妙なものを売る人もいたが、不思議なことにその人は決して昼間は顔を見せず、決って夜であった。
その品物は仁丹の二倍位の丸薬で、飲んでも少しコゲっぽい感じがするだけの、意外にクセのないものだった。
寝小便には物凄く良く効く薬だというふれこみのため、おそらく近所のガキ共の大半は、この薬に一途の望みを託したはずである。
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- 平成14年11月27日(水曜日)
【晴】
木枯しが町に落葉を舞わせる頃になると、夕霞たなびく薄闇の中を、地元の、ある寺の住職が旗竿を片手に、家々を托鉢して廻る姿を見掛けるようになる。
托鉢は冬の間毎日続き、大人達は寒行と呼んでいたが、この行は保育園開園のための浄財を集めるためなのだと、子供でも知っていた。
凍てつくような赤城颪にはためく竿を持つ手も、ワラジから覗く素足も、寒さにかじかんでいるのが一目で分った。
右手の鈴の音がリンリンと近付き、そして遠ざかって行く。
夕闇がつるべ落しに深まり、やがて電柱の外灯が燈る頃、子供達の姿はいつの間にか広場や露地から消えていく。
深いセピア色に染まった過ぎし日の記憶が、昨夜のテレビドラマに触発されたのか、鮮やかに蘇えってきた。
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- 平成14年11月26日(火曜日)
【晴】
昨夜からの雨もあがり、晴れ渡った朝の空の下を画室へとバイクを走らせる。
足利の市街地を三方から囲む山々の紅葉もさることながら、折からの風に街中いたる所で落葉が舞って、今季節は秋を深めて色付いている。
画室の北にそびえる大望山は、さながら錦の衣をまとっているかのような煌びやかさである。
昨日の客の話では、この時節に大小山の山頂に登ると、展望は360度開けて壮大であると言う。
今年は是非山頂に登ってみたいものだ。
午後A氏来室し、息子を交えしばしコーヒータイムを楽しむ。
午後6時過ぎ、後を片付けて帰路につく。
18時33分足利駅発JR両毛線下り小山行き通過のため、遮断機の降りた山川踏切で待機。
シグナルの音を聞きながら、左から接近する電車の黄色の前照灯を見ていると、心は少年の頃に戻っていった。
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- 平成14年11月25日(月曜日)
【雨】
目が覚めると、降りしきる雨音が耳に飛び込んできた。
きっと氷雨になるのだろう。
先日逝去した知人の、今日は野辺の送りである。
この雨はやらずの雨か。
野も山も全て銀色に濡れそぼって霞んでいる。
午前中のレッスンを終え、ストーブにかけたおでんを摘みながら弁当を摂る。
雨はしきりに降り続き、風も出てきた。
南の庇に当る雨音がパラパラと快い音を発て、木々を渡る風もさらさらと和している。
描きかけの墨彩画を二点仕上げ、描き上っている作品を額装し土間に展示する。
朝に落したコーヒーを入れ直し、入れたてを一杯賞味する。
画室いっぱいに香味が立ち、客はたまらずに三杯目をお代りする。
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- 平成14年11月23日(土曜日)
【曇】
午前7時、肌を刺す朝の冷気の中を画室へと向うが、祭日のためか意外に車の通りが多い。
本通りを避けて裏道に入ると、さすがに車もなく、人気のない道は冷え冷えと続いていた。
市街地を抜け山に近付くと、目の届く限りの紅葉であった。
平地なので色はや〃くすんでいるが、雑木の多い山肌や里山は、精いっぱいの彩を見せている。
冷え込みの強いこんな日は、ハイカーの通りもないだろうと思っていたら、意外に多いのに少し驚く。
道すがら立ち寄る人達に心づくしのコーヒーを振舞い、体の冷えた人は上にあがってもらい、ストーブを背にくつろいでもらう。
今日はたくさんの人達が訪れてくれた。
人は自身の足で歩く時、心までもゆっくりと立ち働くのかもしれない。
皆とても良い顔をしていた。
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- 平成14年11月22日(金曜日)
【晴】
昨夜、高円宮の急逝の報に驚く間もなく、知人の訃報が届いた。
近々に訪ねようかと考えていた矢先であったので、悔しきかも疾くは来での心境を禁じ得なかった。
画室を開けるとすぐにコーヒーを入れ音楽を土間に流すが、今朝は弔意を表す曲を選ぶ。
昨日の暖かさが嘘のような寒い日となり、ストーブを身近に持って来て暖をとりながら仕事をした。
午前11時頃、前の畑のオバさんが焚火を始めたようなので、庭の隅に積んで置いた枯木を一緒に燃やしてもらおうと外に出ると、向うから声を掛けてくれた。
冷え込みが厳しいだけに風が無いのがせめてもの救いだ。
燃える火を突付きながら、小一時間程をオバさんと過ごし、仕事に戻った。
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- 平成14年11月21日(木曜日)
【晴】
午前中A氏とS氏来室。
両氏はお互いに旧来の友人で、私にとっても大切な存在である。
コーヒーカップを前に昼まで話に花が咲き、両氏共慌しく次の仕事先にと向った。
朝からストーブにかけていた鍋を味付けして、冷凍うどんを入れ昼食を作る。
壊れたラジカセの代りに取り付けたオーディオから、トラッドな奏法のタンゴを聴きながら食事をする。
午後5時少し過ぎに土間に降りると、BGMの音量が少し大きいようなので、少し絞ろうとしたが、表に人の気配を感じ、それとなく観察すると、門の影の闇に紛れて、外に漏れているタンゴに聴き入っている。
気付かれないようにボリュームを絞る動作をごまかしたつもりだが、多分先方はお見通しだろう。
夜の闇には、漏れる灯とタンゴが似合うようだ。
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- 平成14年11月20日(水曜日)
【晴】
街道に出してある案内板をしまう時刻なので、夕闇の中に出てみると、山の端は既に昇った月の光に照らされ、くっきりと浮び上っていた。
昼間の暖かさのせいか、今夜の月は昨夜と違ってかなり赤いようだ。
月を包み込む雲の色も赤味を帯びて妖しい。
満月には少し足りないけれど、尾根の松のシルエットの上に輝く赤い月は、幽玄の世界に通じる穴のように眼前にあった。
少し前から吹き始めた風が強まって、街道に沿う電線がひょうひょうと鳴っている。
庭の梅の木に張った女郎蜘蛛の巣は、この風に耐えられるだろうか。
闇に沈んだ街道に人の通りは途絶え、時々通る車の音だけが静寂を破る以外に、物の動く気配はなく、画室の土間に燈る電灯の光が、外の闇を深く切り裂いている。
谷は既に休息の刻を迎えて、どこの家の台所からだろうか、夕餉の準備の香りが漂ってくる。
コーヒーメーカーのスイッチを切り、灯を消して画室を閉め、風の中帰路につく。
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- 平成14年11月18日(月曜日)
【晴】
チャとチッピーを除いた九匹を一ヶ所にまとめて、一匹づつを特製の飼育箱に入れて室内に置く。
プラスチック製の飼育箱は手作りである。積み重ねが出来る上に掃除が楽なので本当に重宝している。
これから冬に向って寒さは厳しくなる一方。
ミニうさぎにとっても、冬は一年の内で最も辛い季節だろう。
せめて暖かく過ごさせてあげたいがための苦肉の策である。
先日使い捨てカイロを箱の外側にガムテープで止めて、中が暖まるかどうかを実験してみたら、意外に効果的なのには驚いた。
箱を掃除する時には、中のうさぎを待機用のオリに移すのだが、おとなしくしている奴もいれば、けっこう抵抗する奴もいる。
そんな経験の中から、あることに気が付いた。
茶系の奴はどちらかといえばおとなしく、黒は活発で、グレー系は警戒心が強いようだ。
オスよりはメスの方がおしとやかで、小さい頃に人に接する度合いの多い奴程人懐こい。
チャは何より人に触られるのが好きで、チビクロというメスも人が恋しいのか、私の顔を見る度に近付いてくる。
オネェチャンという名のメスは、コタツのカバーに包んで抱いてやると、何時間でもじっとしている。
グレ父ちゃんとチャ以外は、全てクロ母ちゃんが生んだ子であるが、母ちゃんはもう子供達のことを覚えていないらしい。
クロ母ちゃんとチャとチッピーの世話は、主に家内の仕事で、中でもチャを完全にひいきしている。
相手がうさぎだからよいが、人間だったら他の二匹は絶対にグレているだろう。
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- 平成14年11月17日(日曜日)
【曇】
画室を開けると間もなく、大小山に登るハイカーのグループが土間に入って来た。
来訪者用のコーヒーが入った直後であったので飲んでいただき、少し話をする。
その後も何人かのハイカーが立ち寄ってくれたので、今日はコーヒーの出がだいぶ良かった。
たいした豆を使っている訳ではないのだが、水が良いのでけっこう美味い。
味に角がなく、コーヒーの味と香りが素直に伝わってくるような気がする。
いわゆる味が丸いというのだろうか。
それから少し薄目に入れるので、何杯飲んでも大丈夫なのだ。
今日は曇っているが風がないので、ハイカーも少し汗ばむようだ。
薄目のコーヒーは喉の通りも良く、喜んでもらえたようだ。
「喫茶去」。文字通り一期一会の心で一回一回を落していこう。
こんな苫屋にわざわざ立ち寄ってくれる人達への、せめてものもてなしである。
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- 平成14年11月16日(土曜日)
【曇】
午前9時に野外レッスンのため田沼町に向う。
広々とした農地を東西に走る旧街道にある一里塚がモチーフである。
樹齢約150年のイヌガヤが、根方に古びた祠を抱いて孤立している姿は、ある種の畏怖さえ感じさせる。
背景に低い山並みと集落が点在し、左には里山が迫ってメインモチーフを支える構図をまとめられれば成功である。
塾生と共に筆を走らせながら、想いはいつの間にか過去へと遡っていく。
かつてこの道を行き来した旅人や地元の人達は、きっとこの樹の下で、束の間の休息を得たのだろう。
いったいどれ程の人達が、それぞれの想いを胸にして、この樹の下を通り過ぎて行ったのだろうか。
イヌガヤは、ただ黙して佇むだけである。
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- 平成14年11月15日(金曜日)
【晴】
今朝は銀行に立ち寄るので、いつもより遅い時間に家を出る。
午前8時30分、シャッターの開いた直後に飛び込み、慌しく用を足して画室へと向う。
銀行から画室に向う場合は、JRの線路に沿って進み、JR足利駅前を通過して行く。
その手前に、昔「高砂館」という映画館があって、主に新東宝の作品を上映していた。
もうだいぶ前に閉館となってしまって、今は建物も取り壊されて空地になっている。
私が「高砂館」で観た最近の作品は、確か白髪鬼という邦画であった。
まだ小学校入学前のことで、母と長兄に挟まれてスクリーンに魅入っていたが、現在記憶に残る場面といえば、主人公と思われる男が、マントをひるがえしながら枯葉の積もる森の中を進み、やがて地面に付いた扉を開けて、口を開いた穴の中へ消えて行くところだけである。
映画が終って館を出ると、その向いにある店で餡蜜を食べた。
その店は昔よく見た「水屋」であった。
店内には大きなタイル張りの水槽が階段状に設置してあり、上から順に水が落ちてきて水槽を満たしていくのだ。
各水槽にはサイダーやラムネ、寒天やところてん、時にはトマトやスイカといった果実などが冷されていて、客の求めに応じてテーブルに運ばれる。
大人は勿論、近所の子供達にとっても無くてはならない場所であった。
「水屋」はその性格上、春から夏にかけてが書き入れ時で、秋風が立つようになると、大抵は焼きそばやうどん、それからこの辺で言う「もんじやき」の店に模様変えをする。
通りに出ていた「氷」の旗が引っ込んで、代りに「おでん」ののれんが、半間程のガラスの引き戸の上に下り、表からは店内のおでん鍋が匂いと共に見えるようになっていて、道行く人々の食欲を誘うという寸法である。
品物の値段は、もんじやき一杯5円、おでんも具によっては一本5円と、子供でもなんとか手が出せる金額であった。
この道を通る度に、母と兄と共に入った「水屋」を思い出すのだが、今はその面影の欠片さえ無くなっていた。
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- 平成14年11月14日(木曜日)
【晴】
午後6時頃、帰宅途中国道293号の交差点で信号待ちをしていると、前方から救急車がこちらに向って来た。
速度を落し交差点を右折するため進入して来たが、救急車を通すために停止する車は無かった。
見て見ぬ振りをして、むしろ速度を上げながら走り抜けて行く車のハンドルを握るドライバーの姿が、なんとなく化け物じみて目に映った。
もしかしたら本当に化け物に変身してしまったのかもしれない。
エゴイズムという恐ろしい化け物に。
先日も火災現場に急行する消防車の直前を横断したために、それを避けようとした消防車が横転するという信じられない事故があったという。
常識外の車のドライバーは、中年女性であったそうだが、おそらく本人も大変な怪我をしたのではないだろうか。
凶悪犯罪や少年犯罪が多発する土壌が、このようにせっせと耕されていき、やがて我が身に災厄という形で振りかかってくるのだろう。
景気の低迷や先行きの見通しのつかない不安な世情が、人々の心を変質させてしまうのは当然といえば当然なのだろう。
しかし、人の事などかまっていられないという考えが正当化された時、その世界にもたらされるものは闇でしかない。
話は全く変るが、昨日私は大変な誤りをしでかしてしまった。
「ハイヌーン」を唄っているのはフランキー・レーンだとばかり思っていたところが、今日FMラジオを聴いていたら、偶然にウエスタン特集をやっていた。その中でハイヌーンが紹介され、私の誤りに気が付いた次第である。
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- 平成14年11月13日(水曜日)
【晴】
映画音楽という言葉が生まれたのが、いつの頃であったのかは定かでないが、私にとって最初の映画音楽との出会いはと言うと、それはビング・クロスビーの「ホワイトクリスマス」であったと思う。
順不同ではあるが記憶を辿ると、「第三の男」のテーマ。そして「禁じられた遊び」の愛のロマンスとビゼーのサラバンド、演奏者はナルシソ・イェペスだったと思う。
ジーン・ケリーの「雨に唄えば」、「過去を持つ愛情」の暗いはしけ。言うまでもなくアマリア・ロドリゲス。「道」のテーマ。確かヒロインと同名のジェルソミーナだったか。
「真昼の決斗」のハイ・ヌーン。フランキー・レーンの歯切れの良い節回しが好きだった。
「OK牧場の決斗」も彼が唄った。
「誇り高き男」のテーマは、日本では小坂一也が唄って大ヒットした。
映画の題名は忘れたが、アラン・ラッドとソフィア・ローレンが共演した作品のテーマ「イルカに乗った少年」。「日曜日はだめよ」のテーマ。「掠奪された7人の花嫁」のテーマ。「太陽がいっぱい」のテーマは、アラン・ドロンと共に一世を風靡した。
「黒いオルフェ」はサンバの存在を教えてくれた。「裸足の伯爵夫人」の裸足のボレロ。
「帰らざる河」のノーリターン・リバー。
「黄色いリボン」のテーマ。「アラモ」のテーマ。哀調を帯びた「ヘッドライト」や「鉄道員」、「現金に手を出すな」などは、当時の日本人の感性と共鳴して高い人気であった。
そうだ、チャップリンの「ライムライト」テリーのテーマを忘れてはいけない。
そして「慕情」と「旅情」のテーマは美しいバラードだった。
「南太平洋」のバリ・ハイ、
「荒野の決斗」の愛しのクレメンタイン。
まだきら星のごとくあるのだろうが、この中で私にとってのベスト3を選ぶとすれば、第3位はハイヌーン、第2位は暗いはしけ、第1位は何と言っても愛のロマンスだろうか。
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- 平成14年11月12日(火曜日)
【晴のち雨】
鮮やかな色彩の画面も無論素晴らしいが、モノトーンの映像にはカラーにない魅力がある。
むしろモノトーンだからこそ、より色彩的なのだと思う。
白黒映画の名作をあげたら、およそ切りがない。
「外人部隊」、「禁じられた遊び」、「第三の男」、「ヘッドライト」、「心の旅路」、「肉体の悪魔」、「突撃」、「にんじん」、「異邦人」、「怒りの葡萄」、「天国への階段」、「白い馬」、「ベビードール」、「双頭の鷲」、「追憶」、「レジスタンス」、「モンパルナスの灯」、「罪と罰」、「パリの屋根の下」、「愛人ジュリエッタ」、「居酒屋」、「血と砂」、「ジャンヌダルク」、「美女と野獣」、「センチメンタルジャーニー」、「デカメロン」、「戦艦ポチョムキン」、「望郷」
いずれも心に残る作品である。
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- 平成14年11月11日(月曜日)
【晴】
心に残る映画の共演者を思いつくままにあげてみた。
「道」のアンソニー・クインとジュリエッタ・マシーナ。「ピクニック」のウイリアム・ホールデンとキム・ノヴァク。「赤と黒」のジェラール・フィリップとダニエル・ダリュー。「ローマの休日」のグレゴリー・ペックとオードリー・ヘップバーン。「カサブランカ」のハンフリー・ボガードとイングリット・バーグマン。「陽の当る場所」のモンゴメリー・クリフトとエリザベス・テーラー。「真昼の決斗」のゲリー・クーパーとグレース・ケリー。「空中ブランコ」のバート・ランカスターとジーナ・ロロブリジータ。「ひまわり」のマルチェロ・マストロヤンニとソフィア・ローレン。「にがい米」のアンソニー・クインとシルバーノ・マンガーノ。「緑の館」のアンソニー・パーキンスとオードリー・ヘップバーン。「王様と私」のユル・ブリンナーとデボラ・カー。「旅情」のロッサノ・ポデスタとキャサリン・ヘップバーン。「眼下の敵」のジョン・ペインとクルト・ユルゲンス。「ジャイアント」のジェームス・ディーンとロック・ハドソン。
際限がないから別の折にまたあげてみよう。
題名が印象的な映画をあげてみると、
「我が青春のマリアンヌ」。「自転車泥棒」。「地上より永遠に」。「オリーブの樹の下に平和はない」。「渚にて」。「ヘッドライト」。「鉄道員」。「恐怖の報酬」。「外燈」。「心の旅路」。「地下水道」。「夜と霧」。「死刑台のエレベーター」。そして「禁じられた遊び」
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- 平成14年11月10日(日曜日)
【晴】
午後5時30分、木枯しの中を帰路につく。
バイクのライトに照らされて、ススキとセイタカアワダチソウが闇の中に浮びあがる。
収穫の後打ち捨てられたぶどうの枯葉も、闇の中で振られる手のようにかたわらを掠めていく。
少し広い道路に出ると、対向車が容赦なく上向きのライトを突き刺してくる。
出来るだけ脇道に逃げ込んで難を避けながら道を急ぐ。
交通マナー、全国ワーストワンの名に恥じない現状ではある。
大抵の所は脇道を走れるのだが、どうしても293号線だけは横断しなければならない。
この時が一番危険で、信号待ちの時に後ろについた車が、ムキになって追い抜きを掛けてくるのを予期していないと、高い確率で事故に巻き込まれてしまう。
以前にはこんなことはめったになかったし、余程の人でなしでなければ、節度ある姿勢を崩すことはなかった。
現代はまさしく逸脱の時代なのかもしれない。
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- 平成14年11月9日(土曜日)
【晴】
土曜レッスンのスケッチ現場に着いた所が、地元高校の耐久レースのコースになっていたので、やむなく次回に予定していたレッスンの現場に変更。
そこも同じ安蘇郡田沼町にある、かつてこの辺で盛んに作られていたタバコの葉を乾燥するための倉という、実に魅力的なモチーフである。
今はもう本来の役目を果すことはなくなったが、大抵の家では物置や住宅の一部として便利に使っている。
広々と開けた土地に、のびやかに建つタバコ乾燥倉は、私の好きなモチーフであるだけではなく、亡き師にとっても、追い続けたモチーフであった。
吹き荒ぶ風の中、青空を背景に大地に根をおろすように建った雰囲気は、何度描いても新鮮である。
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- 平成14年11月8日(金曜日)
【曇】
朝の冷え込みが厳しいので、まだ11月なのにダウンジャケットを着てバイクに乗る。
今年は秋を飛び越えて冬がきたのだそうだ。
ヘルメットの下に毛糸の帽子、顔にはマスクというスタイルは正にコンビニ強盗である。
画室に到着するとすぐにストーブに点火し、昼食用のうどん鍋を乗せる。
午前11時頃Aギフトの社長来室、昼少し過ぎまで遊んでいった。
熱いうどんで体を暖め、午後4時まで仕事に打ち込み、コーヒーを入れて小休止する。
井戸水で入れたコーヒーは本当に美味しいと思う。
味に角がなくまろやかなので、かえって香りが引き立つのが良い。
少し薄目に入れて多目に飲むのがいつものペース。
画室中に香りが広がるのも嬉しい。
決して高価な豆を使っている訳ではないが、作りたては何でも一味違うのだろう。
そういえば庭のレモンもそろそろ収穫時かもしれない。
近い内にレモンティーでも入れようか。
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- 平成14年11月7日(木曜日)
【晴】
朝気が付くと、前の畑におばさんが来ていた。
見ると里芋を掘っているではないか。
もしかして昨日の雑記を読んだのかなと思い、焦りに焦った。
おばさん自身がパソコンを操作したとは思わないが、家には息子さん達もいる。
もしそうなら「こりゃまいった」である。
そうこうしている内に、掘り出した里芋をカゴに入れて、おばさんがこっちに来るではないか。
慌てて見ぬフリをしていると、いつものようにガラス戸を開けて声を掛けてきた。
「少しですけど食べてください」
「これは御馳走様です。里芋は私の大好物なんですよ」
「それはよかった。掘りっぱなしで作ってないけどね」
「こっちでやりますから大丈夫ですよ」
なんとなく空々しい会話をしながら、絶対に雑記を読んでいると確信した。
おばさん本当に御馳走様でした。これからもよろしくお願いします。
催促がましいことを書いてしまい、すみませんでした。
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- 平成14年11月5日(火曜日)
【晴】
秋冷の朝に咲くコスモスに思わずバイクを止める。
西に立ちよる斜面に道祖神が二体、その周囲を守るかのように、白を基調とした群生が風に揺れている。
足利と館林の境を流れる矢場川を渡って、館林に入るとすぐに、広大なコスモス畑が道行く人を驚かせる。
まるで絵具箱をぶちまけたような色の乱舞である。
そんな風景も魅力的だが、ささやかに咲くそれには、格別の美しさがあるようだ。
それにしても、コスモスという花の寿命はずいぶんと長い。
もうかれこれ二ヶ月もの間咲き続けている。
勿論同じ花が咲き続けている訳でもないだろうが、春の桜とは対照的な秋桜の個性には強く引きつけられる。
道祖神のコスモスから画室までの間に、数ヶ所の群生が目を楽しませてくれるが、野草に混じって咲く人の手が入っていない野生の花の方がいいと思う。
今年は間に合わなかったが、来年は画室の庭にコスモスを咲かせてみようか。
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- 平成14年11月4日(月曜日)
【晴】
日の出間もない陽が目に眩しい中を、バイクに乗って画室へと急ぐ。
早朝なのに少し吹いてきたようだ。
この様子だと今日は一日風になるかもしれない。
画室のすぐ東の山が、長い影を落しているので、着いたすぐの室内はかなり寒い。
ストーブを点け、コーヒーメーカーのスイッチを入れてから掃除を始める。
一段落して時計を見ると、午前8時を少し過ぎていた。
今日は陽のある内に出来るだけ片付けておきたい仕事がある。
昼近くに外を見ると、やはり風が少し強いようだ。
仕事に必要な物をホームセンターに買いに行きたいのだが、風があるとやはり足が鈍る。
気を取り直してバイクを走らせ、買物を済ませた帰りにスーパーに寄る。
何か昼食をと思い、一人前にカゴをぶら下げて店内を歩くが、何を買ったらよいか分らず、結局インスタントラーメンになった。
夕方に川崎のI氏より電話。
チラシ用の写真の件といくつかの要点について話し合う。
午後6時30分帰路につく。
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- 平成14年11月3日(日曜日)
【晴】
仕事の合間を利用して、車のリアウインドに書く看板のレタリング作業に取り掛る。
久し振りなので始めは少し手順が狂ったが、すぐに感を取り戻し、午前中に下書き完了。
午後1時少し過ぎに千葉のM氏来室する。
肖像画を受け取ると、待たせてあったタクシーに飛び乗るようにして帰って行った。
ここは駅からかなり遠いので、鉄道で来られる方は本当にお気の毒である。
食事抜きで仕事に戻り、午後3時頃一段落したところに息子が来たので、下書きを車のリアウインドに合わせてみるとドンピシャリ。
後は文字のカットだが、それは明日にしよう。
外は風が少し出てきたようだ。
朝ほどではないが段々と冷え込んできた。
昨日は今年初の灯油をタンクで二本買った。
この辺は季節になると、毎週土曜日にタンクローリー車で灯油を売りに来るので助かる。
今日は朝ストーブに火を入れた。
さすがに昼間は火を消したが、いつもヤカンから湯気が出ているのを眺めるのは心が安まる。
冬の最中の行き帰りは辛いが、ストーブのおかげで大根やコンニャクを煮たり、おでんを作ったり出来るので本当に助かる。
野菜をふんだんに入れた煮込みうどんもなかなか捨て難いし、ネギ焼きも昼食のおかずに気軽に作れる一品だ。
来客用の餅もそろそろ仕入れておくか。
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- 平成14年11月2日(土曜日)
【晴】
午前7時家を出て画室に向う。
かなり厚着をしているのだが冷気が浸み込んできて、思わず身震いする。
午前7時30分画室着。
井戸水を汲んでコーヒーを入れている間に、土間とアトリエを掃除して塾生の来室を待つ。
午前9時塾生来室。
野外レッスンのための予定したポイントへ出掛けてみると、モチーフの大樹が無残にも切り倒されていたのには驚いた。
前回来た時には、ちょうど樹の下の小さな畑にいたご夫婦から、色々と話を聞くことができた。
その折に聞いたところによると、樹齢は150年以上で、かつてはこの場所に屋敷があったのだという。
期待して来たのだが仕方がないので、同じモチーフの田沼町に向って車を走らせた。
田沼町の古道に残るイヌガヤの一里塚も、やはり樹齢150年程であるという。
広々とした谷を貫く街道を、自転車に乗った中学生が立ち漕ぎでこちらに向って来る。
冷たい西風に逆らいながら家に帰るのだろうか。
道は一里塚を南に廻り込むように曲っているので、スケッチをしている私達の前に、急に姿を見せたような形となり、彼は少し面食らったのだろう。
照れくさそうな顔で通り過ぎて行った。
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- 平成14年11月1日(金曜日)
【雨】
11月になると、食卓によく菊のおひたしが出た。
独特の香りと甘酸っぱい味が大好きで、いつも楽しみにしていたのだが、子供にしては変った物が好きだと、周囲の大人達に言われたものだった。
あの頃は夜の7時から8時位までの間、毎晩停電していた。
電灯が再び点くまでの間は、蝋燭かランプの光の中で過ごすことになる。
ラジオは沈黙し、本も読むことが出来ない。
だから大抵の子供達はもう布団に入ってしまうのだ。
小学校低学年の子供の真夜中は、午後9時頃であったろうか。
その代り朝は早かったし、朝寝坊は許されなかった。
だから、いつも朝の香りに包まれて一日の始まりを迎えることが出来た。
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