アトリエ白美「渡辺肖像画工房」 渡辺晃吉
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- 平成13年7月30日(月曜日)
【晴】
ここ何日間か、しのぎやす日が続いたが、昨日からまた猛暑が帰ってきたようである。
行き帰りの道や、画室での外仕事の折に、熱中症には充分気をつけていたのだが、午後軽い症状が出てきたので、あわてて安静にしたが間に合わなかった。
頭痛と吐き気が少しおさまったところで充分に水分を摂り、少し早目に画室を後にする。
家に着く途中で知人のもとに立ち寄り、訳を話して休ませてもらう。
だいぶ楽になったのと、少し日がかげってきたのに乗じて家路を急ぎ、午後4時30分頃無事に帰宅する。
すぐに体を冷し、静かに横になって息が整うのを待つ。
たいしたこともなくおさまったようでほっとしたが、今のところ休めない事情もあるので、もう少し気を付けよう。
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- 平成13年7月28日(土曜日)
【晴】
今日と明日の2日間、家内の弟が日本画の個展を開くので、朝の内に顔を出してみた。
小品大作を入れて60余点の作品は、いずれも秀作力作ぞろいで充分に見ごたえのある個展であった。
モチーフは風景が中心であったが、人物がなかったのが少し残念だった。
欲を言えば、鑑賞者の立場としては、素描やスケッチ画といった作者の素顔にふれるような習作コーナーも設けて欲しかった気がするが、期待しすぎであろうか。
また、花鳥画の一部に他の作品や写真からの転写が入っている点は、今後改正の必要があるだろう。
総じて、具象絵画の基礎となるデッサン力がさらに向上すれば、今にまさる力作が生れる可能性は大であると信じる。
それはさておき、亡師の正統な後継者が、名実共に生れたと言っても過言ではないだろう。
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- 平成13年7月27日(金曜日)
【曇のち晴】
画室に行く途中でH女史宅を訪問する。
いつもの事だが、辞去するタイミングがなかなかつかめずに、つい長居してしまうのが悩みの種。
郵便局に立ち寄ってから画室に向い、午後1時着。
昨日の作品が完全に乾いて、いい色を出していた。
少し手を入れ完成させた後に遅い昼食を摂る。
先日タイヤを交換した時に、少ししめが甘かったのか、スタンドにがたつきがあったので修理する。
外はまるで秋の日のような天気で、北からの涼風が、すだれを戸にぶつけるほどの勢いで吹きぬけていく。
山々の緑がきらきらと輝き、大気さえ透明に光っている。
こんな夏の日もあるんだなと、しみじみ思った。
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- 平成13年7月26日(木曜日)
【曇】
亡父の月命日である23日の代りに、少し遅れたが実家に行ったら、東京のオバの訃報が電話で告げられている最中であった。
兄は渡りに舟と受話器を預けてきたので、とりあえず事情を聞き、その後に親戚兄弟たちへの連絡を始める。
昼少し前に一段落ついたので、急いで画室に向う。着いてすぐに母屋に連絡の為、ほんの少し留守にしたのが不運の元となった。
画室に戻ると、上りかまちに置いたはずの弁当が盗まれていた。犯人の見当はついている。案の定庭を調べたら包みが食い破られて、中身が散乱していたが、物影から様子を見ていると、来た!やっぱりパンダ猫だった。
「こらっ、このドロボー猫が」
そんな脅しなど、どこ吹く風とばかりに、くつろいだ様子で食事を楽しんでいた。
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- 平成13年7月25日(水曜日)
【晴】
朝、道の途中でいつもすれ違う外国の若者たちと、挨拶を交すようになってから半年程にもなろうか。
今日は珍しく、彼等は2人だけであった。
この暑さに帽子もかぶらず、爽やかに通り過ぎて行く。
幸い今日は昨日と違い、朝から風がかなり強く吹いているので、日影に入ると涼しいので助かる。
それでもこの暑さで人々の気がいらだっているのか、すれ違う車にも自転車にもかなり注意していないと危険だ。
昨日知り合いのご子息が、横断歩道を横断中に信号無視のトラックにはねられ、頭蓋骨を骨折して重体となり入院したばかりである。
先日、家の近くの十字路で、一時停止を無視した軽自動車に、危うくはねられそうになったが、挨拶もなく走り去って行ったそのドライバーは、小学生の登校時に、時々旗を持って交通誘導しているのを見かけた女性であった。
マナーなど、どこかよその星の話。
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- 平成13年7月24日(火曜日)
【晴】
今日は朝から、昨日を上回る猛暑となった。
どんなにゆっくりペダルを踏んでも、画室に着いたとたん汗がどっと吹き出し、シャツまでびしょぬれ。
体を拭いて着替え、ぬれた物をざっと水洗いして日に干し、3日ぶりの掃除を済ませて一息入れる。
母屋に行くと、肌寒いほど冷房が効いていた居間の長椅子に、兄がだるそうに身を横たえていた。
しきりに体の不調を訴えるが、この部屋からほとんど出ずにこもっていれば、たとえ健康な体の持ち主でも体調を崩してしまうだろう。その事を話そうとも思ったが黙っていた。話したところで、身についた習慣というものはなかなか変えられない。
門下生の一人にも、似たような女性がいて、体が弱いので夏が辛いとしきりに言う。よく話を聞くと、この季節は冷房の効いた部屋をほとんど出ずに過ごすのだとの事であった。多分、体が弱いから暑さを避けるのではなく、その習慣が夏の体調を崩しているのだろう。
健康と引換えに快楽を得るのも、ひとつの生き方なのかも知れないが、なにか違っているような気がしてならない。
今年の夏も、我が家の冷房は扇風機数台の活躍にかかっている。
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- 平成13年7月23日(月曜日)
【晴】
今日、暦の上では大暑。その名にふさわしい日となった。
午前中画室の北側のすだれを新しいものと交換し、久しく放置していた車を洗う。
洗車のついでに水を浴びていたので炎天下でも耐えられた。
着替えて昼食後、たまっていた事務仕事や書き物を片付ける。
午後4時、画室の庭は母屋の影にすっぽりと包まれ、それに合わせるかのように風が吹き抜け始め、室内の温度があっという間に下がって行くのが、快い涼感と共に伝わってきた。
前の畑の梅のこずえがざわざわと騒ぎ、かつて名もなく、今は姥捨という名を持つ山の屋根の松が、驚くほど激しく幹を揺らしているのがありありと見える。
こんな日は夕方から夜半にかけて、大抵は強い雨になる。
どうやら今夜は安眠できそうだ。
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- 平成13年7月22日(日曜日)
【晴】
「追分の掃除をするようになって、かれこれ25年になるけんど、六地蔵様の頭巾よだれかけをいつも新しいのと交換してくれる人の姿を、一度も見た事がねえよ。朝もよほど早え内か、それとも夜中に来て取り換えて行くのか知んねえけんど、この辺りの人じゃねえ事だけは確かさね。何でも南の団地に住む人だとか言う話だけんど、いずれにしても感心な事さね。そういえば、追分の松に住んでいた仏法僧がよ、この間切株の上に卵を生んだんで、猫にでも食われたら大変と言うんで、ブリキをかぶせておいたんだが、誰かが卵に触っちまったんだな。それでもうおしまいさね。親はどこかへ行っちまって、卵もいつのまにかなくなっちまったよ。だから今、掃除のたんびに松の切株にもお供えしてよ、あんたも350年の寿命だったが、役目を終えてゆっくりと休んでくださいよって、話しかけてやるんさね」
老松の切株にも、路傍の石くれにも、等しく神の息吹を見る人の話は、一言一言が魂に染み渡ってくる。
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- 平成13年7月21日(土曜日)
【晴】
「だいぶ昔の話だけんど、国道50号線の大久保坂の手前に、小さな橋があるんだ。その橋を渡ってすぐを北の山に入ると窪地があって、そこが「馬捨山」だったんだと。年とって動けなくなったり、ケガや病気になった馬を、その窪地に連れて行って縛り付けて来ると、その夜は狼の群が来て、翌朝までには骨も残ってねえんだと。部落の人はそこに馬頭観音を祭って、馬の霊を供養したっていう話だよ。暇があったら行って見やっせ。今でも探せばどこかに祭ってあるはずだから」
先日聞いたこの話を確かめに、午後、写生を兼ねて行ってみた。
探し当てた場所は昔日の面影のかけらもないほど整理された区画となっていたが、とある民家のうしろの空地に、擦り減って形も定かではない石像が2体、真新しい御影石の祠に納まっているのを見つけた。そこは窪地というより崖下といった感じで、道を隔てた西側に、かなり広い湿地帯があるのを見ると、かつてはうっそうとした森であったことが容易に想像できた。
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- 平成13年7月18日(水曜日)
【晴のち雨】
午前中の猛暑の中、写生レッスンのため外出。
午後オークションの落札作品を送り出し、草刈を始める。
夕方5時過ぎ、通りすがりの婦人が声をかけて来て、世間話となる。
その内に話題は土地の古事来歴にふれ、背後の山を指差し、
「この山が昔姥捨山だった場所でね。何年か前に◯◯学園が建てられる事になって、そこを整地した時にね、年寄を投げ込んだと言われている大穴とその穴のまわりからね、しゃれこうべや足の骨が出るわ出るわ。土地の年配の人なら皆知っている話だがね、その現場から人の骨が出て来たんで、ああやっぱりかと皆噂したもんだよ。昔この辺の者は数えで60歳になるとね、家の者の背負子に乗せられて姥捨山の大穴に投げ込まれたんだそうだ。切ない話しさね。だがね、もっと切ない話があってね。大小山の下に子捨山って所があって、このあたりの女達は、生れても育てられねえ子を、子捨山まで捨てに行ったんだと。口べらしってやつさね。それがよ、捨てられた子は親恋しさとひもじさで一晩中泣いているんだが、その泣き声が遠くまでとどくもんで、それを聞いている女達はその夜はまんじりともしねえで過ごすんだそうだよ。今じゃ考えられねえ話だけんど、昔はそんなもんさね。こりゃまた仕事の邪魔して悪かったね。ごめんなさいよ」
草刈で火照った身体は、先程からの雨にぬれて冷たく、あたりはいつの間にか宵闇に包まれていた。
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- 平成13年7月17日(火曜日)
【晴時々曇】
昨日に続き、朝から草刈を決行する。文字通り決死の覚悟。
後頭部を陽に当てぬようにほっかぶりしてから麦藁帽子をかぶり、ゴム引きの軍手に手甲をつけ長靴を履く。どこから見ても仕度だけは一人前。ただし仕事は10分と持たず、半分は休み。水分だけは充分に摂らなければと、休みの度にコップでがぶ飲みする。それでも身体は火のように熱くなる。
ようやく昼になり食事を摂るが、流石に食欲は無い。それでも無理に半分程食べ、30分休憩して力をためる。
午後は曇がちとなり風も出て来たので、少し楽になった。
ムッとする草いきれの中、トンボやバッタ、雨蛙達を追い散らしながら頑張り抜いて、全体の半分程を残し、午後5時終了。
気が付くとどこかのノラが不思議そうにこちらを見ていた。
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- 平成13年7月15日(日曜日)
【晴】
今日は朝から何となく調子が悪く、仕事がはかどらない。
暑さのせいばかりではなく、歯車がうまく噛み合わない感じで、どうにもはがゆくて仕方がないのだ。
集中力にもムラがあるし、すぐに気が散ってしまう。
と言って特別に疲れているという自覚もないし、ただ無意味な時間が流れていく。
午後4時30分諦めて筆を置き帰り支度をする。
帰路所々で祭りの音が途切れ途切れに聞こえ、夏の到来を実感しながらゆっくりと自転車のペダルを踏む。
家の近くで近所の夫婦と出会うが、挨拶もなくそっぽを向いて前を通って行った。
その理由を知る術はないが、礼節をすて慎みを忘れ、人格の歪みをまるで汚物のように顔の前にたらしていた。
少しばかりの地位と財が、醜悪な思い上がりという、心の腐敗を生んだのかも知れない。
日曜日の夕方、一番見たくないものを見てしまった。
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- 平成13年7月14日(土曜日)
【晴】
午前9時、ぬけるような夏空に、真っ白な入道雲が絵のような見事さで立ち昇っている。
だらだらとかなりの距離の上り坂を、あえぎあえぎ進んでいる時に見上げた北の空だった。
画室近くの小さなひまわり畑の前で自転車を降り、汗を拭きながらしばし眺めた。
谷の奥へとのびる街道は、陽炎と逃げ水でおぼろにかすみ、足元から立ち昇る熱気は、まるで固体のような手応えでぶつかってくる。
這うように画室にたどり着くと、まずなによりも冷水をがぶ飲みし、ぬれた物を脱いで汗を拭き取って着替えたあと、母屋に行って今日一日のミネラルウォーターを補充する。
午後、気が付くと今年初めての蝉声が耳に届いた。
気のせいか、妙に鳴き方が下手くそに聞こえる。
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- 平成13年7月13日(金曜日)
【晴】
昨日、若い女性のあとを追って行った子猫の事が気になるので、朝いつもとは違う道を選んで、道端に注意を向けながら、自転車をゆっくりと走らせた。
まだ午前9時にならないのに、焦げつくような暑さである。
鳴き声も聞き逃さないように注意して進む。
この辺は野犬はいないから、万一置いて行かれてもなんとか生き延びられるだろう。
あの若い女性、情けに負けて家に連れ帰ってくれれば良いが、どこかそこら辺に捨てて行ったら、かえって条件が悪くなってしまう。
もしかして元の場所に帰って来ているかもしれないと思い、様子を見に行ったが、その気配はなかった。
あの子じゃなくても誰か大切な人に拾われていれば良いがと思った。
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- 平成13年7月12日(木曜日)
【晴】
朝から子猫の鳴き声がしきりにする。
最初はお向かいの猫が子を産んだのかと思ったが、それにしては鳴き声が切実であった。
午後になってとうとう我慢できず様子を見に行く。
外は殺人的な暑さで人っ子一人通らない。
画室を出てT字の辻を北に入ると左側の生垣の向うにいたいた。
おそらく恐怖のために生垣をくぐり、身を隠せる場所を動けずに親を呼んでいたのだろう。
目と目が合ったとたんに、小さな体をくねらせるようにして必死にこちらへ飛びついて来ようとするのだが、あと一歩で出て来れない。
何か食べる物をと画室に戻った間に、通りすがりの若い女性が助け出したが、連れて行く気はないらしい。
それでも子猫は若い女性のあとをまといつくように追って行った。
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- 平成13年7月10日(火曜日)
【晴】
スケッチをもとに淡彩画を描きおこしていると、地区担当の銀行マンが飛び込んできた。
絵描きイコール貧乏という公式を信じているためか、銀行員が訪れることはめったにないので少し驚く。
生来絵が好きなので以前から関心はあったのだが、何となく気が引けて入れなかったのだという。
今日は仕事にかこつけて思い切っての訪問なのだそうだ。
仕事ぶりを見たいと言うので、そのまま描き続けた。
矢継ぎ早の質問にいちいち答えていたら、本人曰く商売柄今まで色々な所を訪ねたが、これほど面白く感動的な場所はなかったと賞賛する事しきり。
結局肝心の営業活動は一切しないで帰って行った。
よほど金には縁の無い所と決めつけているようだ。
まぁ、間違ってはいないが…
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- 平成13年7月9日(月曜日)
【晴】
午前中、埼玉のY氏より電話をいただく。
仕上った作品を見に明後日来室とのことであった。
別に画像をメールで送って欲しい旨の要請もあり、少し遅れそうであったが、なんとか今日明日中には間に合いそう。
注文の品は同一人物を2点。F20号の油彩画とF6号の淡彩鉛筆画である。
油彩画はモデル写真に忠実な顔立ちで製作、鉛筆画は30代の頃の写真のイメージを保って20歳代に加齢した顔立ちを細面でとの指示にそって製作。
鉛筆画は油彩画より細面のため、年齢がやや若作りとなったが、かつて教職にあった折の風貌が何となくうかがえてなかなかの出来ばえとなった。
油彩画は普遍的な母のイメージそのままに仕上ったようである。
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- 平成13年7月8日(日曜日)
【晴】
大沼田の手前、毛野あたりの東向きの斜面に沿って、道は北に向うが、その途中に農具小屋と白壁の土蔵のある農家の前を通る。
道に沿ってひまわりが10本ほどたくましい花を咲かせ、小さな段々畑の土蔵と農具小屋との対比が面白いので、後日の写生のためにとカメラを向けていたら、いかにも温厚な老人がひとり笑いながら近付いて来た。この家の主との事なので挨拶をする。
自己紹介と撮影の許可をもらい、しばらく雑談に興じてその場を去る。
画室近くで、里山を背景に半野生のようなトマト畑がばらばらの実を付けているのが目に止まり、ラフスケッチする。
朝とはいえ炎天下の写生はかなりきつい。
早々に切り上げ画室に辿り着き水をがぶ飲みする。
今日も一日がんばろう。
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- 平成13年7月7日(土曜日)
【晴】
昨日の夕立で慌ててコウモリをバイクに被せた時に、思わず手から離してしまった筆が見付からなかったが、昼過ぎに土間の上りかまちの奥にへばり付くように落ちていたのを見付け、すごく得した気分であった。
土曜日は画室前の街道を散歩する人が多いので、なるべく外を見ないように仕事をする。
いくら簾越しとはいえ、目線が合うと皆慌てて顔をそむけるので気の毒なのだ。
亀山のオバさんが、とれたてのキュウリとナスを持ってきてくれた。
今年はせっかくの梅をとらず、全部落ちるにまかせたようだとたずねると、今時梅干を漬ける人もいらいからと言う。返事であった。
(あぁ残念。前もって知っていたらありがたくいただいたのに)と心に思ったとたん、
「早く話せば良かったですね。いくらでも差し上げたのに」
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- 平成13年7月6日(金曜日)
【曇のち雨】
夕方になってかなり強い雨となり、6時半頃に止む。
帰路、遥か南の地平に秩父山系の低い稜線が、銀灰色の残光の空を背景に東西に長くのびて、かすかに富士の山頂も頭を出しているのが望まれた。
雨後の大気は澄みきって肌に涼しく、黄昏の薄闇の中でさえ、緑は鮮やかにはえて輝いている。
いつの間にかぶどうの実は驚くほど大きく成長し、半夏生をすぎた田は全て苗が植えられ、今日の雨に青々とそよいでいるのも清々しい。
思い立っていつもの道をそれ、川沿いの自転車道を少し走り、紙工場の裏に出てみる。
ハッとするような夕焼けが西の空を染めて、敷地内の濡れた土手道が赤く照り映えて、哀しいほどの美しさの中に佇んでいる。
ゆっくりと、できるだけゆっくりとペダルを踏み、水溜りを避けながら走った。
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- 平成13年7月5日(木曜日)
【晴】
今日も朝から茹だるような暑さ。
画室の中の温度計は35度を越えて、さらに上昇の気配。
おまけに普段はあれほど強く吹きぬけて行く風もピタッと凪いで、外の木の枝が、そよとも動かない。
汗は止らず、首にタオルをまいたままで過ごす。
それでも南北を大きく開け放った開放感は爽快そのもの。
簾ごしの外の眺めは、夏の風情を絵に描いたようで、少し滑稽な気もしてくる。
しかし、まだアブはやって来ないし、セミ時雨も聞こえない。
夏はまだこれからなのだと気付く。
南の庭はもう草ぼうぼうで緑が濃い。
手がすいたら今年で5度目の草刈が待っている。
せめて梅雨が終らぬ内に、雨の中での作業にしたいものだ。
明日からはまた梅雨が戻ると天気予報は言っていた。
今は雨がなにより恋しいと思う。
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- 平成13年7月4日(水曜日)
【晴】
夕方S氏来室。仕事の区切りも良く一息入れる。
お持たせのアイスコーヒーをいただくが寒露の極み。
S氏は足のケガが保障の対象になるとの事であるが、医者に行く予定もないので報告だけ受ける。
しばし歓談の後、午後6時辞去した。
帰路、画材店に立ち寄り会計を済ませ店の人と立ち話に花を咲かせる。
外はそろそろ薄闇に包まれ始めたがまだまだ暑い。
ペダルを踏む度に全身汗にまみれる。
時間的に帰宅途中の自転車族と頻繁にすれ違うが、お互いに共通の苦難を味わっているせいか、思わず顔を見合わせ目礼を交すのも面白い。
皆さん、今日一日本当にお疲れ様でした。お互い無事に家の玄関をくぐりましょう。
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- 平成13年7月3日(火曜日)
【晴】
昨日一生懸命に掃除したバイクの鍵が、どうしても見つからない。
この間まで確かにその辺にあったと思ったのに、どうしたのだろう。
鍵が無ければ修理代が高くなってつまらない。
やはり廃車するしかないか。
ただシートの下の物入れの中が気になって仕方が無い。
以前整理したような気がしたが、なにかを戻した気もする。
発想を変えて明日もう一度探してみよう。
それでだめなら諦めて片付けるか。
午後、デッサンの生徒さん来室。2時間程レッスンする。
風もなく室温が高いのでエアコンをつけた。
冷気がみるみる充満し汗は引いたが、どうにも身体の調子が良くない。
もうすっかり文明に縁の無い体調になってしまったようだ。
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- 平成13年7月2日(月曜日)
【晴】
夏のスケッチのために、すでに動かなくなって久しいバイクを、裏の物置から引っ張り出して来た。
修理代があまり高いようなら無理に直さずに、廃車にする予定であるが、バイクは機動性もあって、おまけに自転車並に小回りがきくので、写生にはしごく便利な乗り物だと思う。
条件さえ良ければシートに座り、ハンドルの上に画紙を置いて描くことが出来る。
運良く日影にでも止められれば言う事が無い。
車でロケハンしながらの運転は少々危険だが、バイクはここぞというポイントに当れば直ぐ道の端に止める事が出来るし、脇道にもためらわずに入って行ける。
第一経費が車とは比べ物にならないほど安い。
この安いという特色こそ最大の魅力だ。
このところ肖像画の依頼が切れ目無く続くので、なかなか外に出られないが、良い肖像画を描くためにも、野外での写生は必要な条件であると思う。
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- 平成13年7月1日(日曜日)
【曇、西の風】
今日から7月、いよいよ夏も盛りとなる。
朝から強風が吹き荒れ、自転車のペダルが重い。
昨日のケガは思ったより軽く、日常生活に支障は無いようだ。
途中で帽子を何回か飛ばされ四苦八苦。
なんとか画室にたどり着き汗をぬぐって一息ついた。
外は陽光がきらめき、木々は激しく騒いで凄まじい。
久し振りにマーラー5をかけて仕事する。
そうだ、今日は死んだ母が昔よく言っていた「おついたち」だ。
母は毎月の一日は必ず墓参りに行っていたが、その理由は今も知らない。
せめて母の代りにとマーラーの9番をかけて先祖に手向ける。
父よ母よ、祖父よ祖母よ、あまたの先祖の霊よ、逝った友よ、全ての善意の人の霊よ、安からんことを。
■アトリエ雑記は平成12年12月15日からスタートしました。
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